南仏のビーチ

文 さかいクリニック
酒井 均
 


   夏の思い出といえば、以前モナコ公国にある国立病院へ留学していたことがある。モナコはカジノで有名だが、夏はヴァカンスでにぎわう。周囲も南フランスの名の通った行楽地がひしめき合っている。ローカル線にゆられ、20分ゆけば映画祭で有名なカンヌがある。


   五月の映画祭がまもなく始まろうとしている頃にカンヌにいった時のことである。南フランスといえども季節的にはまだ肌寒い夕暮れの海岸にプロカメラマンやアマチュアカメラマンが群がっている。小高い防波堤から中を覗くと美しいモデル数人がトップレスでいた。この季節にこのような光景に出くわすなんてさすがにお国柄だけのことはあると感心したと同時に、そこに群がるカメラマンたちを思い、国が違っても男心は同じなんだと少しほっとした。

やがて季節も七月、八月と夏真っ盛りになるとプライベートビーチも含め、数多くあるビーチは人でごった返す。気温は真夏の日本とさして変わりなく、日中はゆうに30℃を越すが、湿度が低い分木陰にいれば涼しく感じる。ビーチを見渡せば、あの五月の時のときめきはなんだったんだろうと思うくらい見慣れてしまったトップレスの女性を至る所でみることができる。なかには60歳を過ぎているであろう皮膚も弛み、至る所にシミのある女性も真っ赤に日焼けし、トップレスで海岸を遊歩している。これもまたお国柄なんだとほとほと感心してしまう。


   九月に入るとさすがに夕方からは肌寒くなり、海水浴客もだんだん少なくなってくる。この頃になると、この地方は祭事の多い秋から春がやってくるんだなあと感じられるようになる。

 


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